†蝶の居る庭† 〜河瀬愛未オリジナル恋愛小説〜

それぞれの視点で描く4人の恋愛模様。〜Four Seasons〜連載中。
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いらっしゃいませ。管理人の 河瀬 愛未 です。
コチラではちょっとレトロな少女漫画風のオリジナル恋愛小説を発表しています。

4人の主人公たちの想いを、それぞれの視点で少しずつ書いていきます。
よろしければ、のんびりとおつきあいください。

※初めての方はコチラを必ずお読み下さい。

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■各1話目から読みたい方は↓コチラ(タイトルをクリック)

Four Seasons〜麻衣〜 第1章「言えない手紙
Four Seasons〜真〜  第1章「水の中の月」 (番外編1話完結)「だからキミには言わない
Four Seasons〜雅之〜 第1章「彼女な理由」  第2章「桜の頃に、君と←現在連載中 08/ 4/21 第8話UP
Four Seasons〜雪乃〜 第1章「モノクローム・パレット←現在連載中 08/ 3/29 第4話UP

↓本館はコチラ。小説はすべてコチラでも読めます。

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桜の頃に、君と 8
四月の風は、まだ冷たく、そして強い。
桜の花びらは容赦なく散らされ吹き流されて足元にまといつく。
なんで今頃咲くんだろう。もっと穏やかに春めくのを待って咲けばいいじゃないか。
まるで わざと散らされるのを望んでいるみたいだ。


「ねぇ、どこ行くつもりだったの」


黙っているオレに痺れを切らせたのか
麗名が顔をのぞき込んできたのでオレはそっぽを向いた。


「別に」

「バイトか学校?」

「どっちも休み」

「家ってこの近く?」

「いや」

「じゃあ女だ」

「気になるの?オレのこと」



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桜の頃に、君と 7
「イワシロ・マサユキ」


彼女の住んでいた街の駅に着いて改札を抜けるなり、
女の子の声でフルネームを呼ばれ、
情けないけれどオレはかなりビビッた。


平静を装いつつ声のした方を向くと、そこに立っていたのは
ブレザータイプの制服をイマドキっぽく着こなしたショートカットの女子高生だった。
一応、女子高生は守備範囲ではないのだが、
ミニスカートからすんなりと伸びた見事な形の生脚に思わず目が行く。
さすが、現役モデル。
ていうか、まだ高校生だったのか。
スタジオでは浮世離れした衣装とメイクで長いウィッグもつけていたので
同い年くらいかと思っていた。


「1週間も経ってないのに憶えてないの? 大学生って、そんなに老化が進んでるわけ?」


今日も話す内容にそぐわないキャンディ・ボイスで麗名はオレを見上げる。


「いや、好みのコなら忘れないよ?」


オレはにっこり笑って首を傾げた。
麗名は、一瞬ホッとしたように頬を緩ませたあと、顎をつんとあげる。
わかりやすいタイプだ。
高校生だしな。


「まぁ、私を忘れるようなバカ男はそうそういないでしょうけど」

「年下は守備範囲じゃないから、もれなく全員憶えてないことにしてるけどね」


オレはそのまま麗名の脇をすり抜けて歩き出した。
見たところ制服はK高のものなので、この駅が最寄り駅なのだとしても、
なんでこんな時間に制服でフラフラしているのか知らないが、
今日はそれどころじゃない。


「ちょっと! なにそれ!!」


麗名はキンキンした声で叫んで、オレの後をついてくる。
これだから年下は守備範囲外なんだってば、お嬢ちゃん。



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桜の頃に、君と 6
3.
彼女が帰ってくると知ってから考えたのは、
なんとか気づかれずに姿を見に行けないかということだった。
本心を顔に出さないのはオレの数ある特技のひとつだけれど、今回はちょっと自信がない。
こっそり一度、今の彼女を見ておけば、どこかでバッタリ会っても、たぶん平気な顔が出来る。


別にオレは約3年もの間、寝ても覚めても彼女を忘れられなかったってわけじゃない。
ここ1年以上は、忘れていることの方が多かったし、
触れられもしない思い出なんかよりは、生身の女の子の方がずっといい。
思い出は繰り返すたびに記憶が上書きされるから、
現実よりも過分に誇張されて、より鮮やかで美しかったように思えているだけだ。
きっとそうだ。その筈だ。


そんなわけで、昨日休みを取った野坂と入れ替えに、オレは今日アルビレオのバイトに休みを入れた。
今日の野坂のシフトはオールなので、彼女と一緒にはいないはずだ。
何気にアイツは目ざといから、気づかれて大声で呼ばれたりするような事態は避けたい。
オレは服を着替えると、サイフとタバコとケータイをジーンズのポケットに突っ込んで家を出た。


私鉄の駅に着くと、乗ろうとしていた各停は行ったばかりだった。
イギリスへ発つ前の彼女は、2つ先の駅前のマンションに母親と住んでいた。
今でも母親がそこに住んでいるのか、帰ってきた彼女が、またそこに住むのかは
野坂に訊くわけにもいかないので、正直まったくわからなかったけれど、
とりあえず会えそうな場所はそこしか知らないから仕方がない。


次の電車は10分後だった。
ラッシュをとっくに過ぎた平日の午前中のホームは人影もない。
タバコに手が伸びかけたものの、終日禁煙の張り紙を見て、
オレは自販機で缶コーヒーを買いベンチに座った。


ガムの跡で汚れた灰色のコンクリートの上にも、どこからか桜の花びらが降って来る。
靴先に留まった白い花を振り払いながらプルトップを引き上げると、
近くの学校のチャイムの音が微かに聞こえてきた。



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桜の頃に、君と 5
理由なんて憶えていない。
でも、オレは彼女が開けて入った門から中へと足を踏み入れた。


飯田雪乃が入って行った門の近くには桜が1本あり、
高い塀の向こうから道路側へ枝を滴らせるように咲いていた。
オレは近くまで歩み寄り、その見事な枝振りを見上げた。


黒く塗られた鉄製の柵の門は、わずかに開いていた。
見た目よりも古びているらしく、掴むと剥がれたペンキのざらりとした感触がした。
人の家の敷地に勝手に入る躊躇いは不思議なほどになかった。
入ってみてわかったが、その門は玄関ではなく、広い中庭へ出るためのものだった。


庭は荒れていた。
かつてはキレイに整備されていたであろう花壇の花は枯れ、
芝生は背の高い雑草で覆われかけている。
オレは家の方へ目を向けた。
少し離れていてよくわからないが、どの窓も雨戸が閉め切られてシンとしている。
誰も住んでいそうもなかった。


彼女の姿が見当たらないので、オレはそのまま奥へと歩いた。
広い庭は裏山と繋がっているらしく、途中から林になっている。
少し薄暗い木立の中を、膝くらいまで伸びた枯れ草をざくざく踏みながら進むと、
すぐまた開けた場所があった。
一瞬、そこだけ雪が積もっているのかと思ったけれど違った。
スポットライトが当たったように光が差し込んだその場所には
門のところで見た桜よりも遥かに大きな桜の木が1本咲き誇っていた。
雪みたいに白い花の塊の下に、彼女は居た。



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